単行本出版社としての矜持

"みすず書房の創業をどの時点とするかに正解はないが、10年ほど前に
「1946年3月を創業とする」と決めた。
それから数えて、2021年は創業75年になる。
『詩心の風光』に始まりこれまで世におくった本の数は、
2020年12月現在で4991点。
このままだと、来年2月16日刊行予定の新刊4点のうちの1点が、
(記念すべきと言っていいのかどうか)5000点目になる。

...
総点数5000点のうち、現在在庫のある本は約1700点。
75年間に刊行した本の三分の一以上が
いまも元気に読者の手許にわたっている。"

今日届いたみすず書房ニュースレターのmsという署名のある「壱岐坂だより」から。
おそらく社長の守田省吾さんの文章なのでしょうね。
3分の1以上の在庫があるというのは率直に驚きです。
出版人としての固い決意が滲み出た
素晴らしいこの文章を引用したいのですが、
ニュースレターを取っていないと読めないようです。

"みすず書房では、在庫のある本が品切になる一方、
眠っている品切書を年間20点程度、
復刊であれ新装版であれ、編集し直した新版も併せて、
新たに世におくっている。
二度と復活できない本もいっぱいあるだろうが、
眠りからの目覚めを待っている本たちも確実に存在する。
新刊書の企画と並んで、それを見定めるのも大切な仕事だ。
2020年はこのような品切書たちが頑張った年でもあった。"

要約しにくい文章なので、
無料のニュースメールということを勘案して少し長く引用させてもらいます。

"クロスビー『史上最悪のインフルエンザ――忘れられたパンデミック』
(初版2003年)の復刊の話が持ち上がったのは今年3月だった。
この本は状況に応じて読まれ、
状況が静まるとさっぱり売れなくなるタイプの本で、
この10年ほど品切になっていたが、
今回復刊すると、3カ月ほどで3000人以上の読者の手許に届けられた。
おそらくこの本は早晩ふたたび読まれなくなり、次の出番があるまで、
ダッグアウトというか品切書として控えに戻り、眠りにつくのだろう。
本にはそれぞれの個性があり、それでよいのだと思う。
バトンタッチではないが、『史上最悪のインフルエンザ』に代わり、
品切書から復活していま読まれつつあるのが、
フランツ・ファノンの『黒い皮膚・白い仮面』だ。
みすず書房の初版はちょうど50年前の1970年だが、
Black Lives Matterと関連して、ファノンのこの本に
ふたたび光が当てられつつある。
この本のテーマはより普遍的であり、
今回をきっかけに在庫本グループの一員として
長くとどまってほしいものだが、そうはいかないだろう。
読者の関心は次から次へと移ってゆく。
それに応じて本の選択・読まれ方も変わってゆく。
新刊書ともども、その全体が本の世界である。"

単行本出版社としての矜持と
本の力に対する深い信頼に感銘を受けました。
しかし、この時代に無料ニュースレターの内容を
すぐ読めるように公開していないのは
ちょっとどうかとは個人的に思いますが・・・。