「世界で一番安全な場所」

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"「あなたは今、
世界で一番安全な場所にいる」とも妻は言った。
もちろん白熊はうようよしているし、
海氷に穴があいているかもしれない。
だが、あと何日北進して村にはこれこれの日に戻れるかな、
といった予期を私はもつことができていた。
この状態こそ彼女がいう「世界で一番安全な場所」の意味であり、
それは紛れもなくコロナ以前の世界の本質だった。"

朝日新聞デジタルの探検家・角幡唯介さんの寄稿から。

犬ぞりでグリーンランドを北上し、
地球最北の海峡をカナダに渡るという冒険の試みをしたのが
新型コロナウイルスで世界が変わった時期だったのだそうです。
結局、カナダへの入国は許されなかったけれど、無事帰還できました。
その対照は、日常と非日常、安全と危険が
逆転してしまった世界を象徴する話ですね。

"私が人間界を離れた54日間は、
おそらく世界中がもっとも劇的に変貌(へんぼう)した
時期だったのだろうと推察するが、
その間、何が起きたのか私はほとんど知らない。...
 今や私は完全な浦島太郎と化した。
北極という安全な常世で、
いまだコロナ以前の世界に属する現代の浦島太郎。
そう書くと思わず笑えてくるが、
たった2カ月で世界がここまで一変し、
そこから自分だけが取りのこされている現状には
言いしれない憂鬱を覚えた。"