『Haruki Murakamiを読んでいるときに我々が読んでいる者たち』

"村上作品の実質的な米国デビューとなる
『羊をめぐる冒険』の英訳は
原作から70年代という時代設定を消し去り、
より同時代のものにした。
英語圏での評価を決定づけた
『ねじまき鳥クロニクル』は全体の4%ほどが削除され、
後半は章立てさえ大きく変わっている。
いささか謎じかけの本書タイトルが示す通り、
英訳のMurakami作品の世界は、
作家を含む翻訳出版に関わった人々の思いを凝縮させ、
化学変化を起こした末にできあがったものなのだ。"

今日の日経新聞読書欄の辛島デイヴィッド
『Haruki Murakamiを読んでいるときに我々が読んでいる者たち』(みすず書房)の書評から。

私もこの本をちょうど昨日読み終わりました。
村上春樹さんの小説の最初の英訳は
日本の英語学習者向けの講談社英語文庫だったこと。
作家のアメリカ・デビューには講談社と、
日本の文化を海外に紹介するための会社・講談社インターナショナルが協力して、
大きな転機になった『羊をめぐる冒険』は
NYにあった講談社アメリカが出版していたこと。
それを読んで、誇らしい思いになりました。

ただし、その後、
より大きく売り出すには講談社チームでは限界があることが露呈して、
ニューヨーカー誌、名門出版社クノップフ社へと
村上さんの活躍の場がシフトしていく様も描かれています。
いわゆる"現地化"が必要だったんでしょうね。

"当時も今も米国、特にニューヨークの読者の支持を得ることが、
世界文学へと羽ばたくためには欠かせない。
そのことに、何より村上本人が自覚的だったことがうかがえる。"

本の最後は
大きく編集し直された『ねじまき鳥クロニクル』が
「世界で最も有名な日本人作家へと変貌させた」作品となった
経緯を描いて終わっています。
村上春樹ファンにはとても興味深い内容です。

英訳本の発売が1997年10月で、
私が会社の研修でNYに住んでいた時期は直前の移行期で、
その一大イベントを目撃できなかったのはじつに残念です。