現代のヘンゼルとグレーテル

パティ・スミス著「ジャスト・キッズ 」読了。

   世間という黒い森に足を踏み入れてしまった
   ヘンゼルとグレーテルのような私たち。
   森の中は、夢にも見たことのなかった
   誘惑と魔女と悪魔だらけだったけれど、
   想像もしていなかった輝きに満ち溢れてもいた。
   (441p)

パティ・スミスロバート・メイプルソープ
二人のおとぎ話のような成功譚と、
映画のような離別の悲劇。
ロバートがパティに語ってほしいと願った
「僕たちの物語」は、純粋な愛と
相互理解の美しい絆の軌跡だった。

   「パティ。僕らみたいに世界を見る奴なんて、
   誰もいないんだよ」と、ロバートは繰り返し言った。
   まるで魔法のような時間。
   こんなセリフを彼が言うときは、
   世界に私たち二人だけが存在しているように思えた。
   (157p)

パティがロバートと過ごした最後のシーンは、
メイプルソープの評伝にも出てきたけど、
悲しくも美しくて泣けます。
二人の作品を愛する人は必読ですね。

しかし、
見るからにヘロインを
やってそうなタイプに見えるパティが、
尖端恐怖症で注射器を
見るのもイヤだとは知らなかった。
それを知った周りの人たちが
驚くのが面白い。

この本の中から、
いくつか印象的な箇所を。

   私のテーブルの左では、
   ジャニス・ジョップリンが
   バンドのメンバーたちとおしゃべりをしていた。
   そしてテーブルの右奥には、
   グレイス・スリックと、
   ジェファーソン・エアプレーンのメンバーが、
   カントリー・ジョー・アンド・ザ・フィッシュの
   メンバーたちと一緒にいた。
   扉に面するテーブルには、
   ジミ・ヘンドリックスが金髪女性と一緒に、
   帽子をかぶった頭を垂れて食事をしていた。
   (160p)

1969年の夏、
NYチェルシー・ホテル隣のバー・レストラン。
ウッドストック・フェスティバルの
ためにいたミュージシャンたち。
夢のような瞬間。

   私は見つけられる限りの
   キース・リチャーズの写真を全部切り抜くと、
   しばらくの間じっくり眺めた。
   そして、はさみを取り出し、フォーク時代を
   私からばっさりと切り落とした。…
   私のヘアスタイルはちょっとした
   センセーションを巻き起こしたが、
   なぜ皆がこんなに騒ぐのか理解できなかった。
   私は今までとまったく同じ人物なのに、
   社会的地位は突然高くなったのだ。
   キース・リチャーズ風ヘアスタイルは、
   まるで会話を引き寄せるマグネットだった。
   (215p)

この日からパティの怒濤の進撃が始まる。

   私は彼を
   セクシュアリティというレンズを通して
   見ることは決してなかった。
   私の彼に対するイメージは無傷のままだった。
   彼は私にとって生涯のアーティストだった。
   (243p)

この絆の強さは一貫していて、感動的だ、

   彼は一般には非公開の作品を
   私たちに見せてくれた。
   その中にはスティーグリッツが撮影した
   ジョージア・オキーフの
   この上なく優美なヌードも含まれていた。
   (300p)

これは現物をぜひ見てみたい。