有名人の食卓を覗く

四方田犬彦「ラブレーの子供たち」を読了。

著名な人物や芸術家たちが愛した料理を
実際に再現して食べてみるという連載を本にしたもの。
その出来はやや玉石混淆だと思うが、
興味深い料理も沢山あった。

冒頭のロラン・バルトの章では、
天ぷらがとりあげられている。

バルトはおおよそ次のようなことを
書いているという。

   日本という社会は、
   外側だけがあって、
   実質に満ちた中心というものがない。
   日本の食べものもまた、
   優れて中心を欠いている。

   天ぷらはほとんど純粋な
   表面からできている食べものである。
   どこまでも軽く薄く、
   そのために抽象的といってもいいくらいである。

いかにも「記号の国」(=「表徴の帝国」)の著者らしい話だが、
こんな難しい話ばかりではない。

ぼくが気に入ったのは以下の章。

「ラフカディオ・ハーンのクレオール料理」
 ぼくが大好きなクレオール料理のレシピ集を
 世界で最初に書いたのはラフカディオ・ハーン(小泉八雲)だった。

「立原正秋の韓国風山菜」
 和にこだわる作家の食事に朝鮮料理の面影を見つける。

「ギュンター・グラスの鰻料理」
 映画「ブリキの太鼓」でも重要な役割を果たす鰻にこだわる。

「斎藤茂吉のミルク鰻丼」
 生涯うなぎにこだわり、
 疎開の時には鰻の缶詰を大量に買って持っていったという。

「ジョージア・オキーフの菜園料理」
 この章にある「古典的な夏のサラダ」はいつか作ってみたい。

「マルグリット・デュラスの豚料理」
 ヴェトナムで育った女性作家が作る
 ヴェトナムの豚角煮料理「ティットコー」と
 短編に出てくる「シュークルート」はぜひ食べてみたい。

比較文学・比較文化が専門の四方田氏らしく、
さまざまな記述の裏にかすかに香る
エスニックなにおいを嗅ぎとり、
その人物の人生にスポットライトを当てて
クッキリと浮かび上がらせる手さばきは見事。

目次をみて自分が好きな人物があったら
ぜひ読んでみることをおすすめします。