音楽と人生

村上春樹の音楽評論集
「意味がなければスイングはない」を読了。

「ステレオサウンド」に連載されていたのは
知っていたが、ちゃんと読んでいなかった。
先頃、
光文社のPR誌「本が好き!」No.7の
「45人が勧める今年読んだ『最高の1冊』」の中で、
野地秩嘉氏が勧めていたので、買ってみた。

とりあげているのは、2人の作曲家と
9人の音楽家・ミュージシャンだ。

   シダー・ウォルトン、ブライアン・ウィルソン、
   フランツ・シューベルト、スタン・ゲッツ、
   ブルース・スプリングスティーン、ルドルフ・ゼルキン、
   アルトゥール・ルービンシュタイン、ウィントン・マルサリス、
   スガシカオ、フランシス・プーランク、ウディー・ガスリー

やや通好みの選択だが、全体に通底するのは、
自らの音楽と人生との折り合いをどうつけるかという
内面の葛藤に焦点をあてていること。

つまり、
”作家の視点”から聴く音楽評論といえるだろう。
どの章も興味深いが、いくつか紹介してみると・・・。

徐々に”自分の音楽”を創り上げた
シダー・ウォルトン。

希有な才能を持ちながら、
たいていは「退屈」な音楽になってしまう
ウィントン・マルサリス。

どちらも東欧出身のユダヤ人で貧しい少年時代を過ごした
”ストイック”なゼルキンと”自然児”ルービンシュタインの
実に対照的な人生(と、音楽)。

それぞれの個性がこの世界と摩擦を起こし、
自らのポジションを模索する姿を
かなり深い音楽分析とともに描いていて、
なんども「ふ??ん」とうなってしまった。
あとがきで
「書物と音楽は、僕の人生における
二つの重要なキーになった」と書く作家にとっては、
”いつか書かなければならなかった本”なのかもしれない。
思い入れも深いような気がする。

初期作品しか熱心に読んでいない村上ファンとしては、
そのころの語調・文体に近い文章の味わいもうれしく、
ほぼ1日で読んでしまった。

そして、
何枚かのCDを買いに走ってしまったことは言うまでもない。