すきやばし次郎の長男

"私が知っている、つけ場に立った禎一さんは、
いわゆる江戸っ子気質、歯に衣着せぬ物言いで、
ピリッとした厳しさがあり、ときにはべらんめえ調、
またそれがお店の空気と相まって、
聞いていていて気持ちがいいくらいなのだけれど、
禎一さん曰く、
それによってお客さんに誤解されることも多いらしい。"

すみません、私も誤解してました。

「すきやばし次郎」小野二郎さんの長男・小野禎一さんの
「父と私の60年」から。
フリーライターの根津孝子さんがまとめた本です。

私が「すきやばし次郎」にお伺いしたのは、
隣の「バードランド」和田さんに無理にお願いして、
二郎さんに握っていただいた1回だけですが、
「なんだか二郎さんの隣の息子さんが出しゃばっててうるさいなあ」
と思ってました。

寡黙なお父さんを補って
いろいろと考えて対処していることが
この本を読むと分かります。
声が大きいのも、
ちょっと耳が遠くなってきたお父さんを
思い遣ってのことなんでしょうね。

偉大な父・小野二郎さんと禎一さんの
年月のディテールはもちろん、
六本木店をまかされた弟の隆士さんとの関係、
それぞれの修業先の話など、
12回の取材ごとにテーマを立てて
聞き書きスタイルで書かれたこの本は、
とても興味深いことを
分かりやすく教えてくれました。
「職人はこうして育つんだ」という発見があります。

いちばん驚いたのは、長男の禎一さんは
二郎さんにカウンターで鮨を握ってもらったことが
ないということです。

"「弟はね、ある。六本木の店を始めた時に、お願いします、
ってここで殆ど土下座みたいな感じで親父さんに頼んで、
あの席に座って、(お店のカウンターを指さしながら)、
一通り食べさせてもらった」"

将棋指しも、
師匠と将棋を指すのは1回だけとか言いますが、
そんなものなのかもしれませんね。

ミーハー的には、
はじめてミシュランの調査員が来て三つ星を取った時、
"おまかせ"のスタイルができた経緯、
オバマ大統領が来訪した時など、
裏話も面白い。

"60歳の私。座右の銘を聞かれたら、
迷わず「継続は力なり」と答えます。
...間違いなく、十年先、二十年先も同じ答えをしているでしょう。
なぜならば、
私は小野二郎という人を一番近くでみてきましたから。"

鮨好きの方には一読を強くお薦めします。