誕生したばかりのスター

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サントリーホールで
ギドン・クレーメルとリュカ・ドゥバルグの
デュオ・リサイタルを観てきた。
座席は1階2列16番。
とても観やすい席だが、
ピアノ・ソナタの時は
ドゥバルグの表情が見えにくかった。

素晴らしかった!
「スゲエもん観ちゃった」というのが最初の感想だ。

●曲目
「アナザー・ロシア」
・ヴァインベルグ:無伴奏ヴァイオリン・ソナタ第3番 op.126 (ギドン・クレーメル )
・メトネル:ピアノ・ソナタ第1番ヘ短調op.5 (ルカ・ドゥバルグ )
     ***
・ショスタコーヴィチ:ヴァイオリン・ソナタ ト長調op.134(デュオ)

アンコール)
ラフマニノフ(クライスラー編):ピアノ協奏曲第2番 ハ短調 op.18

まさに「アナザー・ロシア」。
ふだんあまり聴けない曲目が並んでいた。

"ショスタコーヴィチの朋友で、
一時は彼の"影"のような
存在として生きた"というヴァインベルグ。
彼の無伴奏ヴァイオリン・ソナタは、
バルトーク的な抽象性の高い音楽で難解だが、
ドラム・ソロを聴く時のように、
音列の動きと音色とリズムとだけに集中していると
なんとも言えない感興が湧いてくる。

かつて
ジョン・ケージのまさに無意味に作曲された曲を
弾いたライヴ評にあった言葉を思い出す。

"めまぐるしく変化する夥(おびただ)しい音の群れを
生身の人間が再現する困難さは、
演奏者のヴィルトゥオジティ(名人芸)を極限まで引き出し、
結果として鑑賞者をもひきつける有意性が生じる。"

まさにそんな感じの演奏だった。

続くドゥバルグのメトネルは、
チャイコフスキー国際コンクールでも弾いた曲らしいが、
ラフマニノフの同時代人のロマンティックな曲を、
美しく激しくダイナミックに弾ききった。

コンクールで第4位に甘んじながらも、
"聴衆の熱狂度はすさまじく、
〈モスクワ音楽批評家協会賞〉を特別受賞"した
という新鋭の面目躍如と言えるだろう。

ピアノを習い始めたのは11歳。
途中で文学の勉強のために
3年間ピアノを弾いてなかった等、
信じられない経歴の25歳。

何よりも弱音の響きが柔らかく美しく、
ダイナミックな曲の構成力、
観ていて興奮させられる弾き姿など
1年前には無名だったとは信じられない
スター性のあるピアニストだ。

コンクールでも喝采を浴びたという
「夜のガスパール」は
さぞかし素晴らしかっただろうと思わせる。

後半の2人による
ショスタコーヴィチのピアノ・ソナタは見事な演奏。
第1楽章の諧謔、第2楽章の狂気、
第3楽章の寂寥感がよく出ていた。
激しく弾きまくる第2楽章の終わりでは、
思わず拍手しそうになった(笑)。

曲目のせいか半分ほどの入りの聴衆は、
満員の時に劣らない大拍手でこたえた。

アンコールは、ラフマニノフの
ピアノ協奏曲第2番からクライスラーが編曲した曲。
こちらは甘く美しい演奏で、これもよかった。

いつかリュカ・ドゥバルグがラフマニノフやラヴェル、
リストなどを弾くソロ・リサイタルを観てみたいものだ。

追記)
リュカ・ドゥバルグが
チャイコフスキー国際コンクールで
メトネル、ラヴェルを弾いている映像がありました。
確かにすごい聴衆の反応。
→Lucas Debargue - Fourth Prize:Medtner, Ravel

そして、こちらには決勝のピアノ協奏曲の演奏も。
→Lucas Debargue - Fourth Prize:Tchaikovsky, Liszt